工場の奥でシャトル織機が動いていると、音のリズムがまったく違うことに気づきます。
革新織機の「シュッ、シュッ」という高速の連続音に対して、シャトルは「ガシャン、ガシャン」という、もう少し呼吸の入った音です。この音の差が、そのまま生地の表情につながっているように感じます。
「セルヴィッジ」とは何か——語源と構造
セルヴィッジ(selvedge)とは、生地の両端に自然に形成される「ほつれ止めの耳」のことです。英語では selvage とも綴り、中世英語の「selfegge(self + edge)」、すなわち「自己完結した端」に由来します。最初の使用例は15世紀に遡るとされており、日本語では「耳」または「耳付き」と呼ばれます。
シャトル織機では、杼(ひ)と呼ばれるシャトルが緯糸(よこいと)を巻いたまま左右に往復します。糸は生地の端で折り返すため、切らずに続いていく構造になっています。この「折り返し」によって端が自然に閉じ、ほつれない耳が生まれます。これがセルヴィッジの正体です。
一方、現代の革新織機(エアジェット・レピア・プロジェクタイルなど)では、緯糸は毎回カットされます。革新織機にもそれぞれの方式で耳を整える仕組みはあり、耳自体は機内である程度成形されます。どちらが優劣というわけではなく、「糸が連続して折り返す耳」と「切った糸を織機側で整えた耳」——この構造の違いが、そのまま生地の仕上がりに反映されているということです。
ただし、張力の弱いシャトル織機ならではの、生地全体に残るふっくらとした空気感や凹凸感までは、革新織機では再現しにくい、というのが産地での一般的な評価です。
シャトル織機の速度と生地の関係
具体的な数字で見ると、シャトル織機の打ち込み速度は機種・産地・設定によって異なりますが、おおむね毎分100〜180ピック前後といわれています。一方、現代の革新織機(エアジェット等)は毎分600〜1000ピック以上で動くものもあり、しかも多くの場合、織り幅も広い。
1日の製織スピードで比較すると、シャトル織機は1日あたりおよそ50m程度、革新織機は150〜250m程度とされています。生産効率は革新織機の方が大幅に高く、同じ反数を織るのにシャトル織機は何倍もの時間を要します。
この「ゆっくり」という条件が生地に何をもたらすのか。打ち込みが緩いぶん、糸にかかるテンションが低い状態で経糸と緯糸が絡み合い、凹凸感のある生地の「ツラ」ができます。この不均一な表面が、着込むことでアタリやタテ落ちと呼ばれる色落ちを生む下地になります。
G3型——最も古い記憶に近い織機
シャトル織機——産地では「旧式力織機」とも呼ばれます——の中でも特に語られることが多いのが、豊田自動織機G3型(TOYODA G3)です。
豊田佐吉が1924年に完成させた「G型自動織機(無停止杼換式)」の流れを汲む機種で、G3はその構造を厚地向けに強化したものとされています。製造から半世紀以上が経過した現在、新品部品はなく、廃棄された同型機から部品を取り出して維持するという状態で動いている工場が岡山・井原に数台残るとされています。
G3の製織スピードは1時間あたり5m程度という記録があります。現代の織機基準では信じられないほどの低速ですが、その分だけ糸への負担が少なく、紡績段階の糸の個性がそのまま生地に出やすいという特性があります。
「メーカーにも資料が残っていない幻の織機」と呼ばれることがあるほど、情報が少ない機種です。存在を知っているバイヤーが問い合わせてくることもありますが、供給できる反数はごくわずかで、ロットや納期の相談が成立しないことが多いのが現実です。
赤耳と白耳——「耳」の色の意味
セルヴィッジデニムといえば「赤耳」というイメージが定着していますが、耳の色は赤だけではありません。
もともとセルヴィッジの耳は白色や無染色のものが多く、リーバイスが耳に赤い糸を使ったことで「赤耳」が広く知られるようになったとされています。現在では白耳、青耳、黄耳、レインボー耳など、各メーカーがアイデンティティとして耳の色を設計するケースも増えています。
耳の色自体は織りの構造とは無関係で、品質の優劣を示すものではありません。ただし、耳の見えるカットオフデニムやジャケットのフロントプラケットなど、デザイン上の見せ方として「耳の色を選ぶ」という発注判断が生まれてきているのは事実です。
卸の現場から見たシャトル織機の現実
「セルヴィッジで作りたい」という問い合わせは、ヴィンテージワーク系のブランドを中心に今も一定数あります。ただし、現場での状況は一般的な認知よりも厳しい。
シャトル織機を稼働させている工場は国内で減り続けています。現在、三備産地(井原・福山・児島)を含めても、デニム用のシャトル織機を商業規模で動かせる工場は限られています。
発注時に考慮が必要なのは主に3点です。
- ロット: 革新織機に比べてまとまった反数が難しい場合がある。少量ロットの要求と織り工賃の折り合いがつかないことがある
- 納期: 製織スピードが遅いため、革新織機より長い製造リードタイムが必要。急ぎのスケジュールには向かない
- 幅: シャトル織機は織り幅が狭い(おおむね28〜30インチ前後)。裁断効率・パターン設計への影響を事前に確認が必要
これらは品質の話ではなく、設計・調達のプランニングの話です。シャトル織機の生地を使いたいなら、「使いたい」と決めた時点で早めに動くことが必要です。
なぜ赤耳にこだわるのか、という問い
商談の席で「なぜ赤耳にこだわるのですか」と聞かれると、少し言葉に詰まります。
価格でも希少性でもなく、あの音のリズムごと引き受けている、というのが一番近い気がしています。ガシャン、ガシャン、という遅い音は、工場の誰かが機械の性格を読みながら設定を整えていることの音でもあります。その手間が生地のどこかに残っている——そう感じる瞬間があるのは、単純な機能の話ではないと思っています。
今日もまた、ガシャン、ガシャン、と遅い音が工場の奥で続いています。
セルヴィッジデニム生地についてのお問い合わせ
ALLBLUEでは、三備産地のシャトル織機工場と直接取引しています。セルヴィッジデニムのロット・納期・幅・耳色などのご相談は、まずはお問い合わせください。スワッチ(生地サンプル)の対応状況も合わせてご確認いただけます。
産地・素材・加工についての基礎知識はFAQもご参照ください。
参考文献・出典
- etymonline「selvage」語源
https://www.etymonline.com/word/selvage - ビッグジョン公式ブログ「第十話 セルヴィッジについて」
https://bigjohn.co.jp/blogs/blog/第十話-セルヴィッジについて - Heddels「Selvedge Denim (also Self-Edge or Selvage)」
https://www.heddels.com/dictionary/selvage-denim-self-edge-selvedge/ - HUIS 遠州織物「【生地のコト、産地のコト】vol.7 織機の種類」
https://1-huis.com/all/21404/ - 豊田産業技術記念館「織機技術の発展」
https://www.tcmit.org/research/textile/fiber03 - PR TIMES「メーカーにも資料が残っていない!幻の織機【G3】を使った骨太で極上のデニム」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000036233.html - セルビッチ(赤ミミ)デニムと量産デニムの違い(アルコット)
https://an-alcott.com/blog/selvedge-denim-akamimi - SHOCKMAN-BASE「シャトル織機でゆっくり織るから風合いが良いの?」
https://shockman-base.com/texture-shuttle-loom/
