倉敷市児島が「国産ジーンズ発祥の地」と呼ばれていることは、業界では広く知られています。

ただ、その「発祥」が具体的にどんな場面だったのか、改めて資料をたどると、なかなか生々しい風景が見えてきます。

 

1965年2月、50反のデニム生地が届いた

複数の資料によると、1964年に児島のマルオ被服(現・株式会社ビッグジョン)が大石貿易とデニム供給に関する合意を交わしたとされています。箱根より西での販売を担う、という条件だったようです。

そして1965年2月、アメリカのキャントン・テキスタイル・ミルズ社(Canton Textile Mills、米ジョージア州)から、14.5オンスのデニム生地が50反、児島に届きます。なお、同じくアメリカのデニム大手として知られる「コーンミルズ(Cone Mills、米ノースカロライナ州)」とは別会社です。

同年4月、マルオ被服はこの輸入生地を使い、「CANTON(キャントン)」ブランドとして国産初のジーンズを発売しました。これが一般に「国産ジーンズ第1号」と呼ばれるものです。ただし、この時点では縫製が国内(児島)で行われただけで、生地・ミシン・糸・副資材はすべて輸入品でした。

当時の日本のワーク用綿織物は、厚手でも4.5〜6オンス程度だったとされています。そこに突然、倍以上の重さの14.5オンスという生地が届いたとき、児島の職人たちは「これはブリキじゃが」と驚いた、という逸話がビッグジョン公式を含む複数の資料に残っています。

 

ミシンも、糸も、リベットも、向こうから一式届いた

当時の日本のミシンでは、この厚さのデニムに針が通らなかった、とも記録されています。

結果として、ミシンそのものをアメリカから輸入する必要がありました。さらに、縫製に使う糸、ボタン、リベット、ファスナーに至るまで、既存の国内資材では対応できず、ほぼすべてを輸入で揃えた、と伝えられています。

 

生地も、機械も、副資材も、最初は向こうから一式届いた。そこから国産化の試行錯誤が始まった、というのが児島ジーンズの出発点でした。

 

1967年・1968年のビッグジョン、そして1973年の純国産化

マルオ被服は1967年に自社ブランド「ビッグジョン」の開発に着手し、プロトモデルを発表。翌1968年には正式ブランドとしてファーストモデル「M1002」を発売したとされています(資料によって1967年・1968年のいずれかを「ブランド設立年」とするものがあります)。

さらに1973年には、クラボウ(倉敷紡績)とビッグジョン(当時のマルオ被服)の共同開発によって完成した国産デニム「KD-8」を使用し、素材から縫製まですべて国産の純国産ジーンズ「Mシリーズ」を世に出しました。

「縫製が国産」の第1号(1965年)から、「素材まで全て国産」の第1号(1973年)まで、およそ8年の歳月がかかったことになります。ビッグジョンが2023年に「純国産ジーンズ誕生50周年」を掲げた際には、この1973年を起点としています。

なお、カイハラ(旧・貝原織布)も1970年代に独自のデニム製造技術を確立し、1973年にリーバイス社との取引を開始するなど、この時期、国産デニム素材の開発は複数の経路で並行して進んでいました。

 

児島がなぜ受け皿になれたか

児島は戦前から足袋や学生服など、綿の厚地を扱うワークウェア産業の基盤がありました。1950年代後半から合成繊維(テトロン)の普及によって綿の学生服の需要が落ち込み始め、1964年頃にはジーンズへの転換を決定した。厚い生地を縫う経験と、まとまった職人集団が先にあったことが、ジーンズという新しい製品を受け入れる土壌になったのだと思います。

 

商談で「なぜ児島なんですか」と聞かれることがあります。歴史の話を始めると長くなりますが、少なくとも、1965年の50反から途切れずに続いてきた時間があってこその「聖地」なのだと、資料を読み返すたびに感じます。

 

産地の今——三備地区と、ALLBLUEの取引先

国産ジーンズが生まれた児島を含む岡山・広島の三備地区(井原・福山・児島)は、現在も日本最大のデニム産地として機能しています。「三備」は旧国名の備前・備中・備後に由来し、児島が備前、井原が備中、福山が備後にあたります。

染色工場、整理加工場、縫製工場、ボタン・リベットなどの副資材メーカー——それぞれが隣接する地理的集積のなかで、1965年から続く「作る場所」としての機能を今も担っています。

 

ALLBLUEは、この三備産地のメーカーと直接取引をしています。輸入素材を経由せず、産地の糸・水・工場の現場を知ったうえで生地を届けることが、私たちにできることだと考えています。

 

今日もまた、児島の路地の奥で、ミシンの音が続いています。

 


デニム生地についてのお問い合わせ

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参考文献・出典