生地の問い合わせで、いちばん多く受ける質問があります。

「かっこいい色落ちをするのは、どれですか」

とても素直な質問です。そして、私たちがいちばん即答しにくい質問でもあります。今日はその理由を書きます。生地を選ぶときの、遠回りに見えて近道の話です。

「かっこいい色落ち」の中身は、人によって違う

色落ちには、いくつかの型があります。

糸のムラが縦の筋になって出る縦落ち。粒が点々と散るように白が出る点落ち。膝や腿の凸部に出るアタリ。股関節まわりのヒゲ、膝裏のハチノス。それぞれ、糸の作り方と織り方と染め方で出方が変わります。

ここまでは技術の話なので、説明ができます。問題はその次です。

「かっこいい」と言ったとき、その人が思い浮かべているのが縦落ちなのか点落ちなのか、コントラストの強い落ち方なのか、全体が均一に淡くなる落ち方なのか——そこが人によって違います。しかも本人も、言葉にする前は自覚していないことが多い。

同じ人でも、時期によって変わる

もう一つ、あまり語られないことがあります。

好みは、同じ人の中でも変わります。以前は縦落ちのはっきりした表情を探していた方が、しばらくすると点落ちの穏やかなものを面白がっていたりする。逆もあります。その時々の気分や、手持ちの一本との兼ね合いや、見ているものの影響で、ゆっくり動いていく。

だから「あなたにとってかっこいい色落ち」を、こちらが言い当てることはできません。今日の答えが来年も同じとは限らないからです。

だから、万人向けの正解はない

身も蓋もない結論ですが、これが正直なところです。「この生地が最高です」と一本を挙げることは、私たちにはできません。挙げたとしたら、それは売りたい生地の話をしているだけになってしまいます。

ただ、代わりに渡せるものがあります。好みの方向を言葉にするための軸です。

選ぶための三つの軸

——ムラのある糸(スラブ)は縦の表情を作ります。空紡糸(オープンエンド)は粒立った点の落ち方になりやすい。均質な糸ほど、全体が穏やかに落ちます。

織り——密度が高いほど摩擦の当たる面がはっきりし、アタリの輪郭が出ます。緩く織れば、境界の柔らかい表情になります。

染め——ロープ染色の芯白(糸の芯が白く残る状態)が深いほど、擦れたときの白の出方が強くなります。染めの回数や濃度で、落ち始めるまでの時間も変わります。

この三つを「強い/穏やか」で組み合わせて考えると、自分がどのあたりを好んでいるかが見えてきます。ご相談のときは、まずここを一緒に言語化するところから始めています。

「良い色落ち」ではない色落ちのこと

もう一つ、付け加えておきたいことがあります。

一般に「良い」とされる色落ちには、確かに型があります。ただ、その型に当てはまらない落ち方をする生地が、劣っているわけではありません。その生地なりの個性が出ているだけです。高価な生地でなくても、その生地にしか出ない表情になることはあります。型どおりでない一本を面白がれるのは、着る人の特権だと思います。

色落ちは、生地の性質と、着る人の生活が掛け合わさって出てくるものです。同じ生地でも、穿く人が変われば違う顔になる。そこが面白いところで、だからこそ「正解」を一つに決められない。

ただし、これは着る側の話です。作る側の話は別にあります。どんな落ち方も個性として面白い——そう思うことと、より良い生地を作ろうとすることは、まったく矛盾しません。糸の選び方、織りの条件、染めの詰め方を、いまも毎回考えて手を入れています。そこを緩めた瞬間に、生地屋である意味がなくなるからです。

楽しむのは着る人の自由で、良くしようとするのは作る側の仕事。この二つを混ぜないようにしています。

結局、実物を見るのが早い

言葉で詰めていっても、最後は現物です。色落ちの表情は写真ではほとんど伝わりません。生地の段階では、糸の表情と織りの目、表面の毛羽の具合を、光にかざして見て、手で触って確かめます。

「こういう感じ」という手元の一本があれば、それを見せていただくのがいちばん早い。言葉にならない好みが、実物の前だと一瞬で共有できることがあります。

デニム生地についてのお問い合わせ

ALLBLUEでは、色落ちの方向性も含めて、用途に合わせたデニム生地のご提案をしています。まずはスワッチ(生地見本)で実物をご確認ください。生地からの別注をお考えの場合はMADE TO ORDERのページをご覧ください。