生地の仕上げには、名前を知られていない工程がいくつもあります。「毛焼き」——シンジングと呼ばれるこの工程も、その一つです。表面の産毛を焼き落とす、それだけの工程なのですが、この話には続きがあります。
毛焼きとは何か
織り上がったばかりの生地(生機)の表面には、綿の繊維の端が細かく立っています。いわゆる「産毛」です。綿は短い繊維の集まりを撚って糸にしているので、どうしても繊維の端が糸の外に飛び出します。それが布になったとき、表面全体をうっすらと覆う毛羽になります。
毛焼きは、この産毛を炎(または高熱面)の上に生地を高速で通して焼き落とす工程です。生地そのものを傷めずに、表面の毛羽だけを瞬間的に処理する。染めや加工の前段階、いわゆる準備工程の一つに位置づけられています。
なぜ焼くのか
理由は主に三つあります。
一つ目は、表面を均一にするため。毛羽が残ったままだと、生地表面の光の反射がばらつき、色が霞んで見えます。二つ目は、後の工程の精度のため。プリントや染色は、表面が平滑なほど狙いどおりに入ります。毛羽の上に色を載せると、輪郭がにじむ。三つ目は、製品になってからの毛羽立ちやピリング(毛玉)の抑制です。最初に表面を整えておくことは、着用後の経年変化の初期条件を整えることでもあります。
あえて焼かない、という選択
一方で、この工程をあえて省く選択もあります。
産毛を残した生地は、表面にわずかな霞をまとったような、柔らかい表情になります。光がわずかに乱反射して、色がすこし奥まって見える。洗いを重ねると、残った毛羽が少しずつ寝て、独特の風合いに変化していきます。ヴィンテージのデニムが持つ、あの乾いた霞みに近い表情です。
ただし、今は「毛羽そのものが減っている」
ここからが、実際に生地を扱っていて感じている話です。
近年は綿の品質が上がってきていて、毛羽そのものが以前より出にくくなっています。繊維長が揃い、夾雑物が少なく、紡績の精度も上がる。結果として、糸の表面から飛び出す短い繊維が減っていく。品質が向上した、という意味では良いことです。
ただ、デニムに関して言えば、これは単純な進歩ではありません。昔ながらの毛羽感のあるデニムを作るほうが、今はむしろ難しい。焼くか焼かないかを選ぶ以前に、焼かなくても毛羽がそれほど立たない、という状況が生まれています。
ヴィンテージのデニムに独特の表情があるのは、当時の綿や紡績の水準が今ほど均質ではなかったことの結果でもあります。均質でないことが、味になっていた。それを今の原料と設備で再現しようとすると、「精度を落とす」という逆向きの設計が必要になります。糸の選び方、撚りのかけ方、織りの張力——どこかで意図的に不均一さを残さないと、あの表情にはなりません。
生地選びの視点
実務では、こう考えると整理しやすくなります。
プリントを載せる、シャープな発色が欲しい、製品の毛羽立ちを抑えたい——なら、表面が整った生地。ヴィンテージ調の霞んだ表情が欲しい——なら、毛羽の残る生地。ただし後者は、前述のとおり「残す」より「作る」に近い設計になることがあります。
スワッチが手元にあるときは、光にかざして表面を見る、手で触る——この二つで、だいたいの表情はつかめます。写真では最も伝わりにくい部分なので、実物で確認していただくのが確実です。
デニム生地についてのお問い合わせ
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