ジーンズのポケット口についている、銅色の小さな金具。

普段は気にも留められないリベットですが、この金具をめぐる歴史は、ジーンズというもののかたちを決めてきたと言っても大げさではありません。1873年に始まり、1966年に一区切りを迎えるまでの約100年、この金具は試行錯誤の連続でした。

ジェイコブ・デイヴィスという仕立屋

リベット付きのワークパンツを最初に考案したのは、ネバダ州リノで仕立屋を営んでいたジェイコブ・W・デイヴィス(Jacob W. Davis、1831〜1908年)です。ラトビア生まれの移民で、西部に渡って仕立て業を始めたとされています。

きっかけは顧客からの苦情でした。ある大工の妻が「夫のズボンのポケットがすぐに破ける、丈夫なものを作ってほしい」と頼みに来たとき、デイヴィスは馬具の修理に使う金属リベットをポケットの角に打ち込むことを思いつきます。最初の一本の値段は3ドルでした(1870年代のことです)。

このリベット補強のアイデアは評判を呼び、注文が増えていきました。一人で特許を取る資金がなかったデイヴィスは、生地の仕入れ先であるサンフランシスコのリーバイ・ストラウス社に手紙を書き、共同で特許を出願することを提案しました。

1873年5月20日——特許番号US139121A

1873年5月20日、米国特許商標庁は特許番号US139121A「ポケット開口部の補強に関する改良(Improvement in Fastening Pocket-Openings)」を承認しました。

特許はジェイコブ・W・デイヴィス(ネバダ州リノ)とリーバイ・ストラウス商会(カリフォルニア州サンフランシスコ)の共同名義。内容は「縫い目が裂けるのを防ぐため、ポケットの各縁に金属製のリベットまたはアイレットを用いること」というものでした。

この日が「ブルージーンズ誕生の日」として記念されることも多く、ジーンズという衣料品の起点として位置づけられています。

特許期間(当時の米国特許は17年)が満了した1890年以降は、誰でもリベット補強を使えるようになり、同様の製品が各社から出回るようになりました。

1937年——「隠しリベット」の登場

特許失効後、リベットはジーンズの標準仕様として定着していきました。しかし1930年代に入ると、ある問題が浮上してきます。

バックポケットのリベットが家具や鞍(馬具)を傷つける、という苦情が相次いだのです。リーバイ・ストラウス社はこれを受け、1937年、バックポケットのリベットを生地の裏側に打ち込む「隠しリベット(hidden rivet / concealed rivet)」への変更を決断します。

この変更はUS1999927A「Riveted Garment(リベット付き衣料)」として特許登録されました。変更を告げる最初のフラッシャー(下げ札)には、「The Rivet’s Still There(リベットはまだそこにあります)」という一文が印刷されていたと記録されています。リベットが見えなくなったことへの消費者の困惑を先回りした、珍しいメッセージです。

戦時の省略——S501XXの時代

第二次世界大戦中、アメリカでは金属・糸・布地が軍需統制の対象になりました。この時期のリーバイス501の戦時仕様(S501XX)では、クロッチリベット(股の補強リベット)やウォッチポケットのリベットが省略されました。またバックポケットに施されていたアーキュエイトステッチ(縫い飾り)は、糸の節約のためにペイントで代用されています。

月桂樹をモチーフにした「ドーナツボタン」が使われていたのもこの時期で、金属使用を最小限に抑えるための工夫が随所に見られました。戦時仕様は収集家の間でも識別点のひとつになっています。

1966年——バータックへの置き換えと、リベットの終わり

隠しリベットへの変更(1937年)は問題を一時的に解決したように見えましたが、別の問題が生じていました。

裏側に隠されたリベットは、激しい使用を重ねるにつれてデニム生地を内側から押し破り、再び表に露出してしまうことがあったのです。元の問題——家具を傷つける——が繰り返されました。

リーバイ・ストラウス社は1966年頃、バックポケットのリベットをすべてバータック(カンヌキ縫製)に置き換えることを決定します。バータックとは、ポケット縁や負荷のかかる箇所を密な往復縫いで補強する縫製技法で、金属部品を使わずに同等以上の強度を実現できます。

この変更は現在も続いており、現代のリーバイス501のバックポケットにリベットはありません。

リベットは今も「前ポケット」にある

バックポケットのリベットが消えた後も、フロントポケットの両端(特にコインポケット側のポケット入り口の角)には銅リベットが残り続けています。これはジェイコブ・デイヴィスが最初に考案した「ポケット開口部の補強」という用途が、今も前ポケットでは有効であり続けているためです。

バックポケットではバータックが、フロントポケットではリベットが。それぞれの場所に応じた答えが出た結果として、現在の仕様があります。

小さな金具が教えてくれること

リベットの変遷を並べると、製品の改良というものが「問題の発見 → 解決策の実施 → 新たな問題の発見」の繰り返しであることが、ひとつの事例として見えてきます。

商談の場で「リベットの話」を始めると、たいてい時間が足りなくなります。それはきっと、一つの金具に150年分の試行錯誤が詰まっているからだと思います。

今日もまた、工場の作業台の上に、同じ銅色の金具が並んでいます。


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参考文献・出典