「アタリって、何のことですか」と聞かれることが、思いのほか多い。
デニムやジーンズの色落ちを語るとき、「アタリ」という言葉がよく出てくる。生地の表面が擦れて色が薄くなった部分、というのがおおよその意味だが、「ヒゲ」や「ハチノス」ほど形が決まっていないぶん、説明に少し困る言葉でもある。
アタリとは、接触が生んだ跡のこと
アタリは、生地が何かと繰り返し触れることで、表面のインディゴ色素が少しずつ削れていく現象を指す。ベルトのバックル周り、財布を入れるバックポケットの輪郭、鍵やライターが当たるフロントポケットの内側、椅子の背もたれと擦れる背中の生地——どれもアタリと呼ばれる。
共通しているのは、色落ちの原因が「身体の動き」ではなく「物との接触」であること。歩く・座るという動作そのものよりも、ポケットの中身や持ち物の癖のほうが、アタリの出方を決めているように思う。
ヒゲ・ハチノスとの違い
ヒゲ(股関節前面から放射状に伸びる線)やハチノス(膝裏に現れる網目状の色落ち)は、身体の曲げ伸ばしという決まった動作から生まれるぶん、出る場所やかたちがある程度パターン化されている。
一方でアタリは、生活そのものに左右される。財布をどちらの尻ポケットに入れる癖があるか、鍵をどこに提げているか——同じ一本でも、穿く人によって出方はまるで違う。ヒゲ・ハチノスと並んで「三大色落ち」と呼ばれることもあるが、アタリだけは、履歴書のように穿き手の生活が刻まれる場所だと言えるかもしれない。
生地から見た「アタリの出やすさ」
生地を扱う側からすると、アタリの出方は生地の設計とも無関係ではない。
インディゴは糸の芯まで届かず、表層だけを染める「芯白」という性質を持つ。この芯白が深いほど、摩擦で表面の色が落ちたときのコントラストがはっきり出やすい。リング紡績の糸を使った密度の高い生地は、この差が際立ちやすいように感じる。
反対に、オープンエンド紡績のようにインディゴが糸の内部までやや入り込みやすい構成では、同じ接触があっても色の変化は穏やかになる傾向がある。展示会でサンプルを見比べながら「この生地はアタリが強く出そうですね」という話になることも、実はよくある。
どこにでも起きて、どこにも同じものがない
アタリは、デニムの色落ちの中でいちばん個人差が出る部分かもしれない。だからこそ、ヴィンテージの実物が持つ「これは本物の生活の跡だ」という説得力を、加工でそのまま再現するのは難しい。
同じように糸そのものの個性が色落ちに表れる例として、経糸のムラが縦方向の筋になる「縦落ち」という色落ちもある。アタリが暮らし方の跡だとすれば、縦落ちは糸の個性の跡、と言えるかもしれない。
生地の設計でできることは、アタリが「出やすい土台」を用意するところまで。そこから先の表情は、穿く人の暮らし方に委ねられている。今日もそんなことを考えながら、次の生地の打ち込みを眺めている。
アタリの出やすさは、生地によって変わります。気になる方はスワッチからどうぞ。
