プレミアムデニムの市場では長らく、「セルヴィッジ」と「日本製」が強く結びついて語られてきました。米国市場では現在も、輸入されるセルヴィッジ生地の大きな割合を日本産が占めているとされ、プレミアム帯における日本産地の存在感は数字でも示されています。

しかし、ここ数年でその構図は確実に変わりつつあります。

海外産地が「シャトル織機の世界」に本格参入している

業界誌 Sourcing Journal の2024年の特集では、トルコ、パキスタン、中国、ベトナム、タイ、メキシコのミルが、紡績・染色・繊維開発の各領域で大きく進化していることが報じられています。一部の海外ミルでは、設備・認証・量産安定性の面で、日本産地と同等、あるいは特定領域ではそれ以上の提案力を持つケースも出てきています。プレミアムを謳う海外ミルが、シャトル織機・ロープ染色・リング紡績という技術セットを採用するケースは、もはや珍しくありません。

各種業界レポートでは、中国・インド・パキスタン・トルコなどのデニム生地供給力が大きく伸びていることが示されています。地域ごとの特徴を整理しておきます。

  • トルコ:プレミアム志向。EU市場との地理的近接、ハイストレッチ性能、循環型染色設備(クローズドループ・ダイハウス、再生水処理など)に強みを持っています。
  • 中国:世界のデニム生地生産で大きなシェアを占め、多数のミルが稼働。量産規模では群を抜く存在です。
  • インド:GOTS や BCI などサステナブル認証の取得が進み、中価格〜プレミアム帯で地歩を固めつつあります。
  • パキスタン:コスト効率と量産洗い加工に強みを持ち、輸出規模も大きく伸びています。

つまり「セルヴィッジを織る」「ロープ染色をする」「リング紡績で糸を作る」という技術側の差別化は、もはや日本だけの専売特許ではありません。これは認めるべき事実だと考えています。

旧型シャトル織機は、限られた個体しか動いていない

ここで現実的な制約を確認しておきます。日本のセルヴィッジを支えてきた豊田自動織機 G3(1924年初代開発)は、現代の市場では新規生産されていません。動いている G3 は、すべて既存機の整備・継承によるものです。Type G3 を実稼働させている日本のミルは限られているという報道もあります。米国のシャトル機 Draper X3 に至っては、最後の生産が1940年代で、現存稼働機はさらに限られます。

旧型シャトル機は、それ自体が希少な資源であり、世界のどこでも自由に増設できるものではありません。日本国内で役目を終えた旧式織機が、海外に移設されるケースもあり、設備そのものの希少性だけを日本の優位性として語ることは難しくなっています。

それでも、日本産地が手放していないもの

技術側の優位性が薄まっても、規模では海外に勝てなくても、日本のセルヴィッジ産地が引き続き持っている価値は、数値化できないところに集約されていると考えています。

  • 熟練工の継承:児島には多くのデニム関連企業が集積しています。ただし、ベテランの熟練工不足という構造課題も同時に進行しているのが現状です。だからこそ、希少性の根拠は設備ではなく人にある——という言い方が、これからは正確になります。
  • 染色の地場性:井原の地下水、児島の藍甕、酵素管理——これは設備を移しても再現できない要素です。
  • 後加工との一体運用:洗い・ヴィンテージ加工の職人が、織元から徒歩圏内に集中している産地構造。
  • 物語の解像度:誰が、どの織機で、どのくらいの速度で織ったか——バイヤーに語れる粒度。

セルヴィッジを織れることが希少なのではない

大切なのは、技術形式そのものが世界に広がった今、日本産地の価値は「形式」ではなく「運用の深さ」に移っているという認識です。

セルヴィッジを織れることが希少なのではありません。どう織るか、誰が調整するか、どの加工場と組むかまで設計できることが希少になっています。

これからの価値は、「日本で作られた」という表示だけではなく、「日本の職人性とともに設計された」というプロセスにあると考えています。

ALLBLUE がとるべきポジション

ALLBLUE は織機を持たないテキスタイル・コンバーターです。だからこそ、規模競争には最初から参加していません。私たちが提案できるのは、「Made in Japan」というラベルではなく、「Made with Japanese Craftsmanship」——日本の産地が持っている職人ネットワークと一体になった、企画から仕上げまでのプロセス全体です。

メゾンや海外ブランドが私たちに直接声をかける理由は、生地の希少性そのものではないと考えています。「この素材は、誰と、どのように作ったか」を語れるパートナーが必要だからです。

世界各地のミルが「セルヴィッジを織れる」時代において、日本の産地に残された希少性は、設備ではなく人とプロセスに移行しています。ALLBLUE は、その変化を前提に動いています。


主な参照: Sourcing Journal(2024年デニム特集)、Business Research Insights「Denim Fabric Market Size, Share, Trend」、eTextile Magazine、Fashionating World、Heddels(豊田 G3 関連)、Craftsmanship Magazine(Draper X3)、Bloomberg(日本デニム産業労働力特集)。